NPO法人 総合政策研究会(IGPS)

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提言 コメの自由化をテコに輸出産業化を―農業成熟大国を目指して

平成25年5月29日発行
 国論を二分していたTPP(環太平洋経済連携協定)の参加問題は、安倍晋三首相の政治決断で交渉参加が決まった。加盟十一カ国も日本の参加を承認して七月にも協定づくりの会議に加わる見通しになった。方向が定まった以上、これまでの賛成、反対の立場を超え、国民は一丸となってTPP参加によるデメリットを極限にまで最小化し、メリットを最大に得る努力をしなくてはならない。特に、最も影響が大きいと予想される農業の分野への対策が注目されている。 
 日本の農業の衰退ぶりを示すデータには事欠かない。かつては六百万ヘクタールあった農地は現在四百五十五万ヘクタールと二四%減少した。基幹的農業従事者は八百九十四万人から百七十八万人へと八〇%も激減した。耕作放棄された農地は四十万ヘクタールにのぼり埼玉県や滋賀県の面積とほぼ同じになっている。農業総産出高をみると一九八五年に十一兆六千億円あったのが二〇一一年には八兆二千億円に減少している。 
 そのうえ農水省は、TPPに参加すると日本の農業生産高はさらに三兆一千億円減少すると試算しているのである。こうしたことから国民の間では「日本の農業は競争力がなくなり衰退していく」と思っている人が多い。
  しかし、果たしてそうなのだろうか。われわれは、日本ほど農業にとって恵まれた国は世界中探してもそんなにないと考えている。水が豊富で四季がある。雨が定期的に降り、余分な農薬を流してくれる。地形は南北に長くしかも高低差があるから、同じ作物でも時期をずらして作ることができる。日中の寒暖の差を活用すれば品質の良い高価格のコメが生産でき、花も色が鮮明になる。米国や豪州の大規模農業には敵わないと最初から諦めるのではなく、わが国土の持つこうした特性に目を向け、自信を持ってこの豊かな資源を活かすべきである。現在でさえ、日本農業は世界で五〜六番目に位置する堂々の農業大国なのである。しかもその多くは国内需要だけに頼ったものだ。農業輸出で「鎖国」同然でありながら、これだけの規模を維持している事実から私たちは日本農業の潜在力を認めなければならないだろう。   日本人が、縄文、弥生時代から受け継いだ恵まれた自然と地勢のなかでのたぐいまれな勤労精神のDNAが、現代的な大規模化と効率化、さらには技術革新によって生産コストを大幅に引き下げ輸出に打って出る好機がいまであろう。たとえば現在、農産物販売額が一億円を超える農家が五千五百戸あるが、これを一万戸に、そして二万戸にと増やしていくことが視野に入るのである。 政府は今夏の参議院議員選挙に向け、成長戦略の柱として「農業・農村所得倍増計画」を発表した。 だが、肝要なことは選挙スローガンではなく、どう実現するのかまでの政策でありそこに至るロードマップである。 率直に言えば、TPP交渉でコメの聖域化を求めるのは所得倍増プランと両立しない。いやそれどころか、そもそも各国との交渉で合意も得られないのではないか。 われわれは、以下のような施策を行えば農家所得倍増が少なくとも一〇年後に実現し、名実ともに地域経済に貢献する「農業大国」になると確信しここに政策提言する。


提言一 コメの関税ゼロを受け入れよ

 TPP交渉にあたり政府・自民党はコメ、麦、牛豚肉、乳製品、甘味資源作物の農産物五品目を聖域として守る方針とされる。しかしゴール間近での遅過ぎた参加表明で、五品目もの例外を要求して認められるとは到底思えない。この際、思い切ってコメの関税ゼロを受け入れるべきだろう。ただし、完全実施までの猶予期間を十五年と五年程度延ばしてもらうのである。それだけの時間的余裕があれば、対応が可能な状況になる。与えられた猶予期間の間に大規模化をテコに生産コストの引き下げを行えばよい。 水不足の豪州は日本市場に輸出するだけの余力がなくなってきているという。日本のコメと同じくらい美味しいと評判のカリフォルニア米も、短粒種は十二万トンほどしか作っていないし、輸入して販売すると日本産とほぼ同じ価格になる。日本市場に大きく入り込むとは思えない。 警戒しなければならないのは中国産だろう。しかし十年前、中国産米の価格は日本産の五分の一といわれていたが、日本産の価格が下がり、中国産価格が上がったため現在では三割程度の価格差しかない。中国政府は都市と農村の所得格差を是正しようとしており、日本産とのコメの価格差は縮まることはあっても拡大する恐れは少ない。しかも中国農家の一戸あたり耕地面積は日本の三分の一であり、水も十分ではない。美味しくて安全なコメを作る日本の農家が壊滅するという事態は起きないと断言できる。 いま上海や香港では日本産のコメの評価が高まっている。香港では新潟産コシヒカリが一キロ千三百円で売れたケースもある。これは稀少価値でプレミアムがついたためと思われるが、安全で美味しい日本産食品への関心が高いことを示している。 「コメは聖域」などと時代錯誤な言葉を発するより、六〇年前の産業界のように、リスクを覚悟で自由化の海に漕ぎ出すことだ。ホンダ、トヨタ、ソニーなどはそこから生まれた。それが日本経済の大きな成長転換点となり、現在の私たちの生活水準を向上させてくれているのではないか。 TPP交渉は外に向かって飛躍することを決断する好機であり、仮に不安が残るとしても、与えられた猶予期間の間に対策を講じればよい。


提言二 農業の大胆な規制改革を進めよ

コメの減反はもう止めよう

我が国の農業を衰退させた最大の原因は減反政策であり、関税で高価格を維持する政策だったといえる。 減反政策は米価を高値に維持するために生産調整する一種のカルテルであり、一九七〇年から始まった。およそ四十年が経過したが、水田面積の四割を水田として使用しなくなり、その一方で耕作放棄地は広がった。維持されるはずの米価は、需要減退が影響してひと頃の半値に下がっている。その間、単収増につながる品種改良は事実上許されなかったから、いまや十アールあたり収量ではカリフォルニアに水をあけられてしまった。もはや減反政策を続ける意味はなく、段階的に廃止すべきである。 高い関税で農業を保護するという方式も基本的見直しが必要である。この制度はもっぱら消費者に負担をかける結果となり、結局は需要の減退を招いてしまった。消費者負担分、即ち、本来の価格と関税で高くなった価格との差は大きい。民主党政権はそのうえに農業者戸別所得補償というバラマキ政策を行ってしまった。 この際一切をご破算にし、関税をなくして農家には直接所得補償制度で支援する方式に変えるべきである。消費者負担から納税者負担への転換である。その際、大規模化推進のため一定規模(例えば一ヘクタール)以下の兼業農家には支払わないようにすべきである。欧州はかなり早い段階で消費者負担から納税者負担にして成功している。農家自らが意欲的になり創意工夫をするようになったからである。また消費者負担から納税者負担への転換は低所得者の負担を軽減する効果もある。

農地の大規模化を促進しよう

二〇一〇年二月現在の一戸あたり水田経営面積は全国平均で一・二七ヘクタール(北海道は九・二一ヘクタール)で大規模化は遅々として進んでいない。小規模兼業農家が農地を貸したり手放したりしないからであり、抜本的対策が必要である。 コメの生産コスト(労働費も含む)は農家の経営規模と水田が集約されているかどうかで大きく変わる。二〇一一年産の六十キロ当たり平均生産費は一万三千六百六十九円だが、0・五ヘクタール未満だと二万二千五十六円なのに十五ヘクタール以上の場合だと半分以下の八千七百七十三円である。 現在、平均的農業法人の経営面積は十四・八ヘクタールであり、それが二十八か所に分散している。これを一か所に集約することができれば、六十キロあたりの生産費は六千円程度になるという。さらにはカリフォルニア米と同じ単収になるよう品種改良すれば四千円程度に引き下げられるという。 大規模化がなかなか進まないのは、小規模の農地を持つ兼業農家がその土地を耕作放棄地でさえ貸すこともなく保有し続けているのが原因とみられる。この際、ありとあらゆる手段を講じて大規模化に協力してもらうようにしなければならない。例えば大規模農場経営法人に現物出資した場合には配当所得を無税にする、などである。税制による推進策も必要である。耕作放棄地には固定資産税の宅地並課税をするほか、相続税の優遇措置を廃止する。農地を大規模農家に貸した兼業農家には奨励金を支給、貸地相続の場合には相続税を免除する。売却した場合には所得税を免除するのである。

農業への参入を自由にしよう

農業関係の既得権をいくら守っても、衰退しつつある現実は誰も否定できない。そもそも参入規制は、日本農業の活性化を阻んでいる大きな要因だろう。 農地法は二〇〇九年の改正で緩和されたとはいうものの、他業種からの参入には厳しい規制がかけられている。法人が土地を取得するには経営形態に条件がつけられ、農家以外の人が農地を取得しようとすれば、北海道では二ヘクタール以上、その他地区では五十アール以上の農地を耕作する者という原則が農地法第3条で定められている。面積要件は地方の実情に応じてかなり緩和できるようにはなったが、なお緩和する余地がある。 農地の有効活用を図るならば、農地を農地として利用する場合には経営形態を問わずに権利の移転を自由に認めるようにすべきである。 地元の「農業カルテル保持」のような農業委員会のあり方も検討してしかるべきだ。まずお手盛り的な農地の転用承認をやめさせてはどうか。 このほか、農地の民間斡旋が容易になるよう農地価格、地代等の農地情報を開示し、データベース化して閲覧可能にするべきである。

農業団体に前向き改革を迫ろう

いわゆるJA農協の政治活動が日本の農業政策に大きな影響を与えている。選挙になると地方選挙では、その存在が候補者の帰趨を決定づける場合が少なくない。特に小選挙区ではそうだ。その意味でJA農協の改革も行わなくてはならない。かつては農家の味方だった農協は組合員数確保のため零細兼業農家擁護の姿勢をとっており、大規模農家とはしばしば対立している。 二〇一一年の正組合員数は農家戸数をはるかに上回る四百六十七万人、地域住民に認められている准組合員は五百十七万人にのぼり、信用事業、共済事業に力を注いでいる。しかも独禁法の適用除外、第三者による監査も不要という恩典をあたえられている。 農業の大規模化を進めるうえで農協の役割、組織の見直しが必要である。農家が生産した農産物を売る販売事業、肥料や農機具などを農家に売る購買事業、金融機関の信用事業、保険に相当する共済事業の四事業は事業ごとに分割すべきである。 また作物別農協など新規農協の設立を認めるべきである。


提言三 農産物輸出こそ肝である

我が国の二〇一一年の農産物産出額は八兆二千億円と世界五、六位にランクされる農業大国でありながら、輸出はわずかその三%にあたる二千六百億円にすぎない。輸入は五兆五千八百億円だから異常ともいえるほどアンバランスである。その結果、世界最大の食料純輸入国となり、自給率を下げている。本来ならば輸出入を均衡させるべきであり、このような国はどこにも見当たらない。日本は別世界と考え、官民ともに輸出は念頭になかったのである。せめて輸入額の半分程度は輸出で稼ぐようにしたいものである。輸出額を現在の十倍に伸ばすのである。そうなると農家所得倍増は間違いない。 それには日本の風土に適しているコメの大量輸出が必要である。さきにも述べたが日本のコメの評価は高い。減反の廃止などコストを下げて安くすれば、市場は世界中に広がるだろう。コメには絶好の商機が訪れているのである。JA全農が最近になって、三年以内に三千トンのコメ輸出を実現させると発表したが、そうした情勢変化にようやく対応しようとしているのだろう。 農水省によると世界の食市場は二〇〇九年には三百四十兆円だったが二〇二〇年には六百八十兆円へと倍増する。なかでも中国、インドを含むアジアの市場は、八十二兆円から二百二十九兆円に三倍増になる見通しという。 日本貿易振興会(JETRO)が世界各国で実施した「最も好きな料理」のアンケート調査によると、日本料理がフランス料理、中華料理、イタリア料理を押さえてトップだったという。コメに限らず日本の農産物輸出の環境は整いつつある。 政府はこのような流れを受け止め、大量輸出が可能な体制を作らなくてはならない。検査官を増員したり、相手国の植物検疫情報を開示収集して緩和を要請したりするべきである。 検疫の厳しい国には加工して輸出する方法があり、コメも日本で炊飯し「ごはん」の形で輸出すればかなりの需要が見込めるはずだ。  さらにいえば、TPP加盟で影響がでると予想される酪農分野でも、九州の牛乳を生乳のまま韓国や中国へタンカー輸出するようにすれば道は開けてくるだろう。


提言四 農家は販売にまで関与し付加価値を

作物を作ってそれで終わるのでは農業は成功しない。出口、すなわち消費者にどうやって届けるかまで考えるのが真の農業家といえるのである。今まで二次、三次産業の事業者が得ていた付加価値を農業者が得ることができる。第六次産業化論はここから発する。 大都市近郊で人気の農産物直売所は既に一万か所を上回っている。そこに出品している農家の所得は従来の二、三倍になったといわれている。食品企業と連携するとか、有名料理店に食材を提供するという方法もある。要は他人に販売の全てを委ねるのはやめるべきである。 そういうことを考えると、農業と食品産業は一体であるととらえてよい。食品産業の生産額は現在九十五兆三千億円であり、これは国内総生産の一一%である。食品産業は今後年率二%ずつ伸びると予想されており、農産物もそれにつれて消費が増えるはずである。 農林水産省は、第一次産業である農林漁業が加工、販売まで担うようになることを六次産業化として推進、二〇一三年二月、農林漁業成長産業化支援機構を設立した。国が三百億円を出資するほか民間企業七社が出資する株式会社で、異業種との連携、加工、販売、観光などへの取り組みに対し補助、融資を行う。 農産物を核にした食品産業団地形成にも活用できると思われ、おおいに利用すべきではないだろうか。


提言五 技術力で新しい強靱な農業を創れ

農業の活性化を図る場合、非常に参考になるのがオランダの政策である。花卉だけの輸出では先細りになると判断したオランダ政府は一九九〇年代、同国唯一の農学部をもつワーヘニンゲン大学を中心に食と農の産業クラスターを形成することにし、ワーヘニンゲン食品化学センターを設立した。そうしてフードバレー構想を打ち出し、インフラ整備をしたあと共同研究に四億五千万ドルの国費を投入、現在では半径三十キロメートル内に千四百四十二’社の企業が研究所や生産拠点を持っている。そうして生み出されたのが質の高いトマト、パプリカ、マッシュルーム、イチゴであり主力輸出商品にしたのである。しかもその生産技術を多くの国に輸出、そこでも外貨を得ているのである。  我が国は変化に富んだ地形があり、地域ごとに気候も異なっている。その土地に適した作物が必ずあるはずである。コメにしても地域に適合した早生種、中生種、晩生種を選び、それをうまく組み合わせると生産コストは下げられる。 日本には国立を中心に農学部をもつ大学は六十校以上もある。高度成長時代にはそれが時代の変遷に対応していないと批判されていたものだが、それがこうした時代にはむしろ順風だ。特に基幹大学の農学部学生は大学のアカデミズムの中に沈潜することなく、農業現場に出かけよう。村に出向いてその土地に適合する作物を見出し、実際に生産すべきである。そうすればフードバレーを全国各地に何カ所も作ることが出来るのではないか。 近年日本人は海外留学を敬遠する気風にある。中国、韓国の学生に比べかつての日本の近代化精神をリードした進取の気性が失われつつある。この際、政府は農学部生の留学に思い切って国費で支援の道を探るべきである。  土地に適合するというと野菜ではブロッコリーである。今や生鮮野菜として欠かせないブロッコリーは、日本の種苗会社が新品種を次々と開発、世界に広めた野菜である。日本でも栽培が増えてきたが、中国などからの輸入が多い。南北に長い日本で作ればほぼ年中収穫できる。農場を大規模化すれば優れた輸出商品になるだろう。 一例を挙げれば、広島の瀬戸内海に浮かぶ生口島を中心にした島々がレモンの生産をこのところ急速に伸ばしている。気候風土に合った作物としてレモンを見出したのだった。レモンはほとんどが米国からの輸入であり、皮にはカビ防止のための農薬が付着している。発ガン性があるこの農薬は洗っても落ちないから、安全で美味しい国産レモンはいまや引っ張りだこという。それでも国産レモンのシェアは六、七%にすぎない。 生口島ではレモンを使う料理のレシピを研究したり、加工食品の試作を始めたりしている。一つのクラスターに育つ可能性を秘めているようだ。同じように農薬がかかっているオレンジ、グレープフルーツでも同様の動きがあってよい。


提言六 希望を持って参入できる成長産業に

 基幹的農業従事者の平均年齢は、最新のデータによると六十六・二歳になった。一九九五年には五十九・六歳だったから高齢化が急速に進んでいることが分かる。既存農家の保護を目的とし、農家出身以外の人の就業を阻んできた農政のひずみがここにきて顕在化してきたといえる。職業選択の自由という大原則が農業に関しては対象外になっていたのである。  農業を成長産業にするにはこの際政策を転換し、若者が率先して農業に参入し、担い手になって幸せになるような環境を作る必要がある。放棄された農地、遊んでいる国土を有効に利用してもらわなければならない。 政府は昨年度から「青年就農給付金」の制度を創設、研修期間には二年間、自立してからは五年間にわたって年百五十万円を補助する施策を講じている。最大で一千五十万円を受給できる新制度は、島根県などでは応募者が二倍を超える人気だった。初年度が百十四億円、今年度予算で百七十五億円が計上され、成果が期待されている。 しかしこの制度で新規就農が増えるかといえば、やはり農地取得で障壁がある。若者でも自由に参入でき、年々規模を拡大していけるように改める必要がある。またフランスのように支援期間を十年程度に伸ばしたほうがよいのではないか。(了)

提言 新エネルギー戦略の柱に石炭火力を――ゼロ・エミッション化を視野に入れて 平成24年9月28日発行

[目次]

 

提言一 石炭火力発電を再評価し、推進せよ 

      

原発再稼働の環境が厳しくなる中で、石炭火力を再びベース電源の主軸として据えるべきである。CO2対策としてゼロエミション化を目指しながら世界最高のCO2低減技術を海外移転する責務もある。

提言二 国の主導で天然ガス・パイプラインをつくれ  

 

「3・11」後わが国へのLNG輸入が急増、LNG価格は高騰して貿易赤字を急拡大させ、日本経済に悪影響を及ぼしている。国内、海外ともパイプラインを国主導で建設することも価格安定につながる。

提言三 限界見極めつつ再生可能エネ投資を支援せよ 

  

太陽光、風力など自然エネルギーへの国民の夢は広がる。だがそれが「脱原発依存」と連動して、どうつながるのか。FITに問題はないのか。リアルに限界を見極めることも肝要だ。

提言四 資源輸入のためのバルク拠点港の整備を急げ  

 

資源輸出国の大型船時代を迎えて、石炭などを受け入れるわが国の輸入港湾インフラは意外と貧弱だ。 コンテナのみならず、バルク拠点港湾の戦略的な整備が必要だ。

提言五 第五のエネルギー♀J発に取り組め      

 

   節約、効率、工夫など日本人の「もったいない精神」が本領を発揮するだろう。だが省エネ機器の開発、普及、コジェネの推進は今後の官民の共同作業になる。

 

[本文]

 

二〇一一年三月十一日に起きた東日本大震災とそれに伴う津波に襲われた東京電力福島第一原子力発電所の事故は、日本人の価値観とそれまでの常識の多くを根底から覆すほどの衝撃だった。「原発は安全」という神話が崩壊、「科学技術立国」という看板は色あせた。

大震災から一年半近くが経過したが復興は遅々として進まず、なお十数万人が故郷に帰れないまま避難生活を送っている。政府や国会など四つの事故調査委員会報告書は、東電はもちろん政府にも安全を優先する意識が薄く事故防止策や危機管理態勢が十分ではなかったことを明らかにした。部分的ながらようやく公表された東電内部のテレビ会議の様子は、事故当時の社内の混乱ぶりを示している。SPEEDIという緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステムがあったにもかかわらず活用されなかったことも判明した。

こうしたことから国民の間では、事故への印象が薄れていくどころか却って政府への不信感が募っている。国民の安全を守るという意識が政府にも行政にも東電にもなかったのではないかという疑念が強くなってきた。毎週、首相官邸周辺で行われているデモは、そうした国民感情を表しているといえるだろう。

いずれにしても福島原発の事故は、これまでの日本のエネルギー政策を白紙にして根本から見直すことを迫るものとなった。現在の我が国の「エネルギー基本計画」は東日本大震災の九ヶ月前の二〇一〇年六月に閣議決定されたものであり、二〇三〇年までに新たに十四基の原発を作るという原発依存の計画になっている。CO2の二五%削減という鳩山由紀夫首相(当時)の國際公約を実現するための計画だった。

東日本大震災はこの計画を一瞬にして無価値なものにした。原子力発電への国民の反発は想像を超えるものがあり、原発の新設は不可能に近い。米国のスリーマイル島の原発事故は福島の事故と較べれば軽微ともいえる事故だったが米政府は原発の新設を長期にわたってストップさせている。

政府はこのほど新たな「革新的エネルギー・環境戦略」として、「2030年代に原発稼働をゼロにする」とする政策を打ち出した。その策定にあたってのシナリオとして提示したのが二〇三〇年における発電電力量のうち原発の占める割合を「ゼロ」にするか「一五%」にするか「二〇〜二五%」にするかという選択肢である。

エネルギー・環境会議は基本理念として「反原発と原発推進の二項対立を乗越えた国民的議論を展開する」という原則を掲げた。全国十一箇所の意見聴取では約七割の人が「ゼロ」を求めた。原発は危険な存在であること、事故が起きれば政府も地方自治体も頼りにならないことをほとんどの日本人が身をもって体験したのだから当然とも言える。

しかも使用済み核燃料をどう処理するのか、日米原子力協定を初めとする国際間の協定(契約)をどう処理するのか、その目処さえついていない。「ただ原発ゼロ」というスローガンだけが宙を舞っている感がする。これでは休止中の原発再稼動も容易ではない。

三つのシナリオは経済界からも批判された。シナリオが実質経済成長率を一・一%と低く設定しているため経済に悪影響を及ぼすと懸念しているためである。確かに経済成長を抑制するエネルギー計画は避けるべきである。一方で「原発は限りなく縮小させる」というのが世論であることも確かだ。

 新しいエネルギー基本計画は、あらゆる状況を勘案しながら「ポスト『3・11』」の電源対策に全力をあげる必要がある。既存の原発は法の規定に則り規制委員会により安全が十分確認されたあと、中央政府、当該地方政府、地域住民の多くが同意したものに限り稼働するという方針にすべきではないか。

今後原発再稼働、もちろん原発新攝ンがそう簡単でないことを踏まえると、原発依存度の割合は前もって「ゼロ」と決めるものではなく、結果として決まっていくものだと考えざるを得ない。新エネルギーの将来の可能性もそれを決める一つの要因だ、政府支援の程度、コストを通じての企業、家庭の反応と同時に、経済への影響、地球環境への配慮などがそれを決めていくであろう。「エネルギー小国」の日本が世界の資源争奪戦のなかで経済成長を続けながら生き残っていくには、もっと一定の時間軸を置いて戦略的に検討することが重要だ。

京都議定書でのCO2排出を「九〇年比二五%削減」と国連総会で発信して世界を驚愕させたのは、普天間基地を「最低県外、国外移転」と言ったのと同じ鳩山由紀夫首相(当時)である。首相が異なるとはいえ、同じ民主党政権が今度「原発ゼロ」を宣言しても世界は信じてはくれないないだろう。

ドイツのメルケル政権は「3・11」後、ただちに2022年に「原発ゼロ」に踏み切った。といって別にいま日本がこれを追いかけるように「原発ゼロ」を世論から導き出すことはない。ドイツが「ゼロ」に導かれたのは一九七九年のスリーマイル島事故以降、チェルノブィリ事故を経由して、三十年余の長い政治の闘争から生まれたものだ。

 日本の現実に戻ると、いずれにしても当面縮小しつつある原子力に替わる熱源は化石燃料しかない。ただ原発停止後、我が国は代替熱源を液化天然ガス(LNG)や石油に求めたが、その結果國際収支が大幅に悪化した。二〇一一年度の貿易収支は、前年度の八兆円近い黒字から一転して一兆六千百六十五億円の赤字となった。四十八年ぶりの赤字である。このため経常収支は九兆五千五百七億円と前年度比四六・六%減少した。また二〇一二年一―六月期をみると貿易収支が二兆四千九百五十七億円の赤字、経常収支は三兆三百六十六億円の黒字だが前年同期比四五%減となっている。このまま高価なLNGや石油を電力の熱源にしていたのでは電気料金の大幅値上げを招くばかりではない。これに太陽光、風力などのシェアが増えれば世界一高い電力コストを背負わされた経済は成長どころではなくなる。

これからのエネルギー政策の最大の目標は、値段が安くエネルギー安全保障という面でも安心で、なお環境的に許容範囲にある化石燃料をいかにして調達し、効率よく使うことである。そうした視点から見ると、低価格で供給も安定している石炭火力をまず柱に据えるべきと考える。同時に現状では価格面で問題があるものの、天然ガスがもう一つの選択肢となる。幸い米国では頁岩(けつがん=シェール) から天然ガスを取り出すシェールガス革命が起きている。エネルギー価格が我が国の望ましい方向に変動する可能性が出てきた。

 そこでわれわれは次の五つの提言を行う。

提言一 石炭火力発電を再評価し、推進せよ

いまさら石炭火力か、と意外に受け止める向きもあろう。だが主要各国の電源構成を発電量ベース(IEA=2009)でみてみると、中国が七九%、インド六九%、米国四九%と石炭の割合が圧倒的に多い。クリーンエネルギー開発に熱心で二〇二二年までの「脱原発」を宣言したドイツさえも四三%、風力発電でわが国でも有名なデンマークはほぼ半分(四九%)は安くて経済的な石炭火力である。総じてエネルギー消費の大きい国は石炭に頼っている。世界平均は四一%であるが、日本では原子力、LNG火力、石炭火力がそれぞれ二七%とバランスを取った電源構成となっている。これは第一次石油ショックのあと石油依存から脱却すべく原子力、LNG、石炭をそれぞれ増加させていったからである。石炭は安価で安定的な電源として、原子力とともにベース電源の一角を担っていることは意外と知られていない。

しかし近年は地球環境問題の高まりで石炭の新規開発はますます不利な状況に追い込まれた。二酸化炭素(CO2)の排出量が多いためである。単位発電量あたりのCO2排出量は、石炭を一〇〇とするとおおまかにいうと、石油八〇、天然ガス六〇である。

しかし最近わが国の石炭火力技術は急速に進歩している。超々臨界圧石炭火力(USC)は熱効率四二%と世界の最先端を走っている。この最新技術を使った発電所は旧来方式の石炭火力に比べてCO2排出量を一七%削減できる。また現在二〇二〇年ころの商用化に向けて実証試験が進む石炭ガス化複合発電(IGCC)では、熱効率は天然ガス火力に近い五〇%近くにまで改善できるといい、CO2排出量をさらに一〇数%削減できるという。さらに、その次には燃料電池を組み合わせて熱効率五五%以上を目指す石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の開発も期待されている。

こうした技術と併せてCO2を回収・貯留技術のCCSを使えば、石炭火力のゼロ・エミッション化が視野にはいってくる。

石炭は世界中に広く埋蔵されており、その可採年数は石油の二・六倍、天然ガスの一・九倍(開発中のシェールガスを除く)と長いとともに、価格変動も少なく安い。燃料コストは一キロワットあたり四・二円程度であり、液化天然ガス(LNG)の半分以下である。これまでベース電源の主力であった原発の代替エネルギーとして石炭火力発電所をわが国は最も安価で安定的な石炭火力としてもっと重用してもいい。

エネルギー安全保障の点から見ても、石炭の調達先は豪州の比率が圧倒的に大きく、政情不安定な中東依存度ゼロな点は、石油、天然ガスに比べても大きな強みになる。

石炭はCO2を排出するという点では原発には敵わないものの、わが国が保持している最新技術を海外移転し世界の石炭火力を「低脱CO2型」に改良していけば、グローバルなCO2排出量を大幅に削減でき、二十一世紀前半における日本の最大級の国際貢献になることが期待される。

地球環境問題を文字通りグローバルなCO2問題と考えれば、日本の排出量はわずか4%に過ぎず、それをさらに低減する努力もむろん重要だが、一方で石炭火力の比重が多い中国、インド、米国などに技術移転する意味は大きい。昨年一〇月、電源開発はインドネシアに最新鋭の石炭火力発電プラント(一〇〇万キロワット×二基)を技術輸出したが、同国では最高効率の環境負荷低減タイプであり、日本の誇る高度技術による国際貢献の一例として挙げられる。われわれが石炭を見直し、再評価すべきとする論拠はここにもある。

だがそれを推進するには課題も少なくない。環境省は石炭火力新設に厳しい立場を取っている。環境省が石炭火力に高いハードルを求める理由が、CO2を「九〇年比二五%削減」という非現実的な政治目標にとらわれた規制であるなら「三・一一」後、エネルギー戦略の抜本的な見直しが迫られているいま早急に見直すべきだ。石炭火力をいま建設しようとすると、運転開始まで一〇年かかるという。原発依存度が徐々に下がっていくと考えれば、老朽設備の最新型石炭火力へのリプレースについて四年もかかる環境アセスを簡素化することが求められよう。

現行の電力供給計画では二〇二〇年までに運転開始されるLNG火力が三〇基(一、五九〇万キロワット)に比べ、石炭火力はわずか三基(二二〇万キロワット)に過ぎない。国益という視点で、民間企業が積極的に石炭火力に投資できる環境を整備することが重要だ。

石油やLNG火力の燃料費負担が拡大する現状では、電気料金の上昇が避けられず、企業や消費者負担は重くなるばかりである。

提言二 国の主導で天然ガス・パイプラインをつくれ

「三・一一」後、わが国の電源は大きく天然ガスに依存している。全電源のおよそ三割を原発に頼っていたそれ以前でも、化石燃料にしては比較的CO2排出量が少なく、価格は高くとも三割近い電源シェアを占めていた。

だが原発が事実上止まって以来、天然ガスの比重は急伸し、価格問題は先鋭的に顕在化している。

わが国の天然ガス価格は俗に米国の五倍、欧州の二倍といわれるほど高い。具体的には百万BTUあたりLNGは十七ドル前後であり、米国の二、三ドルと較べれば極端に高く、ドイツなど欧州諸国の十一ドル前後と較べても五割から六割高い。まして原発依存度が低くなっていく中での主要な電源になるとすれば、経済に大きな影響をもたらすゆゆしき問題である。前述したように貿易赤字は最新の七月の統計ではついに史上最悪の赤字を計上した。これが単なる一過性の数字ではなく、これが今後も継続するならやがて経常赤字の悪化につながり、数年後には金融市場で国債(JGB)の不信任につながりかねない一大事になりかねない。

価格が高い原因は欧米のような国際天然ガスのパイプラインがなく、液化天然ガス(LNG)に加工して輸入していること、そしてその価格が石油価格連動であること、さらにはこれまで輸入の主導権を握っていたのが電力会社であり、電力会社は容易に電気料金に転嫁できるから価格交渉に熱心でなかったのが影響しているとされる。それに輸入を介する商社には量的な確保が最優先事項であり、価格は二の次だろう。今年三月期決算で大手商社が軒並み大幅な利益を計上しているのは、このLNG輸入のメリットだ。国策的なオールジャパンの購入策を講じることがこのエネルギー危機の中で検討すべきだ。

これまで原発依存三割時代には、ガスの国際パイプライン敷設にあまりにも冷淡だった。その理由には旧ソ連と正常な外交関係が結べなかったことも一因だが、国のエネルギー戦略が国内電力会社の閉鎖的な体質に頼り、大局を見ていなかったことも大きい。東シベリアのガス開発状況を注視しつつ、これを直接輸入できるツールを早く手にすべく政府の先導的な支援が必要だ。

欧州では冷戦時代を通じて、延べ八十万キロの天然ガスパイプラインが敷設され、生産国のロシアやアフリカ諸国と直接つながっている。米国も約五十二万キロのパイプライン網が張り巡らされている。お隣の韓国も約二十年前、国内を環状に網羅する全長二千五百キロの幹線パイプラインを敷設済みである。

一方国内でも最近ようやく首都圏、中京圏、関西圏をつなぐ計画ができたようで喜ばしい。しかしこれはもっと迅速に規模も拡大して推進すべきであり、ガス生産大国のロシアともつなぐべきであることはいうまでもない。ウラジオストックと新潟の距離は九百キロ。カスピ海や黒海での実績もあり、技術的には問題ない。海中に敷設するからサハリンー北海道経由よりも安い。そうすれば安価な天然ガスが手にはいる条件が整備される。

ガス・パイプラインはいまや一国にとって欠かせないインフラであり、整備新幹線よりも優先して構築すべきではないだろうか。政府は幹線パイプライン敷設にむけて規制緩和のための法規の見直し、税制、財政面での支援を行うべきである。

米国で始まったシェールガス革命はいまや世界に広がり、開発ラッシュが各地で展開されている。地下水など環境に配慮して規制している地域も一部あるが、環境対策は採られつつあり開発はさらに加速されると思われる。

シェールガスは世界の広い範囲に存在しており、天然ガスの可採埋蔵量は二百五十年分とも四百年分ともみられるようになった。どうやら今後しばらくの間、世界のエネルギーは石炭と天然ガスに依存する流れになりそうだ。それだけに、パイプラインがなければ経済的に太刀打ちできなくなる恐れがある。

提言三 限界見極めつつ再生可能エネ投資を支援せよ

 再生可能エネルギーの飛躍的な拡充は、資源小国のわが国が最も力をいれている政策である。日本のみならず、世界中が大なり、小なり「原発から遠ざかる」という政策に舵を取っているといえるだろう。日本のみならず、欧米も原発増設に懸命な中国ですら、自然エネルギーの開発に躍起となっている。メディアの世界もこの夢のエネルギーブームと「日本の原発のへま」(独紙)と相まって一種のバブル状況である。だが夢が大きいほど、結果との距離感がとてつもなく大きくみえる。思い出すのは一九七九年の米スリーマイル島事故直後のカータ―大統領の野心的計画だ。ホワイトハウスの屋上に太陽光集光装置を敷き詰め、二〇〇〇年までに二〇%の電源は太陽光にすると宣言した。だがいまはその一〇分の一に過ぎない。

 一時的な国民世論と政治的なスローガンは時に非現実的な癒着を起こしがちだ。日本もオイルショック後、「サンシャイン計画」「ニューサンシャイン計画」なる太陽光発電計画の社会実験を試みた。その熱意は原油価格の下落とともに冷え切って二〇〇〇年に打ち切った。近年では農水省が巨額な政府資金を投じた「バイオマス計画」がある。先に総務省の監察がその成果が乏しいと予算の無駄を指摘したばかりだ。CO2削減を名目にした農村地域向け予算の振り分けではなかったのか。

今年七月から始まった固定価格買い取り制度(FIT)は事業規模としてはかなりの効果を発揮すると予想される。買い取り価格が一キロワット時あたり四十二円と割高に設定された太陽光発電には新規参入が相次ぎ「一年で粗利益が八五%になる。こんなに儲けていいのだろうか」といぶかる声さえあり、バブルの様相を呈している。

 政府はこうした施策によって一次エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を現在の約一〇%から二〇三〇年には二五%〜三五%にしたいとしている。さらに「原発ゼロ」を実現する三〇年代には四割という数字すら浮上した。しかしこれはきわめて甘い見通しである。というより国民の誤解を招きかねない数字と言わざるを得ない。

現在の一〇%という数字は水力発電を含めてのものであり、水力発電を除くと一%程度にすぎない。水力発電は今後増える見込みはないから増加分は太陽光、風力などの新エネルギーでまかなわなければならない。いわば現状の十五〜三十倍の発電量にしなければならないのである。

 太陽光発電の稼働率は平均で一一%から一二%にすぎない。メガソーラーをいくら作っても実際に得られる電力は限られる。割高の買い取り価格もいずれ批判の的になるだろう。 

 風力発電について我が国では騒音問題、低周波振動問題、希少種の鳥が衝突して死ぬという現象などがよく新聞で報じられ、マイナスイメージが強かった。しかし諸外国のケースをみてみると、太陽光発電よりも風力発電の方が実績をあげている。太陽光を伸ばしたとして評判のドイツでさえ、風力発電の設備が太陽光よりも六割多い。スペインは八・五倍、米国は十六倍、英国は八十倍と風力を重視している。しかも風力の稼働率は約三〇%と太陽光を上回る。

 環境省が委託調査した「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査報告書」によると、太陽光は一億四千九百二十九キロワット、風力は陸上が二億八千二百九十四キロワット、洋上が十五億七千二百六十二キロワットとなっている。風力の方が太陽光よりも十倍以上の可能性を持っているのである。買い取り価格は一キロワット時あたり二十キロワット以上が二十三・一円、二十キロワット未満が五十七・七五円だからかなり優遇されており、或る程度期待できる。ただ風力発電に適しているのは北海道、東北であり、送電線が不足している。

 また、太陽光も風力も出力が不安定で波があるのが欠点である。これをどうやって平均化していくか技術的課題は多い。

 我が国の再生可能エネルギーとして比較的有望視されているのが地熱発電である。地下のマグマを利用して発電するもので、地震国だけに世界第三位の開発可能性を持つとされている。環境省の報告書では千四百二十万キロワットは開発できるとされている。

 地熱発電は現在、全国十六か所にあり合計五十七キロワットにすぎない。これまでは「温泉の湯が出なくなる恐れがある」という温泉業界の反対で開発が手控えられていた。しかし温泉業者自体に発電事業を委ねたり、一度使った湯を地下に戻すと約束したりでようやく開発の気運が出てきている。地熱発電の稼働率は七〇%以上といわれ、期待できる。

 とはいえ、二〇三〇年に再生可能エネルギーで二五%〜四〇%という目標達成は極めて難しい。せいぜい二〇%と見積もっておくべきだろう。

 新エネルギーを急速に拡大するには相当のコスト負担が生じるという点にも難点がある。これが企業、家庭に重い負担を与える要因になりかねない。

一方これまで電力会社の反対でできなかった発電と送配電の事業分離が実現すれば「送電線に余裕がない」という理由で電力会社が買い取りを拒んでいた太陽光、風力など再生可能エネルギーの買い取りがスムースになり、自然エネルギーの開発に役立つだろう。

提言四 資源輸入のためのバルク拠点港の整備を急げ

 日本は周囲を海に囲まれた島国であり、戦後はそれを活かして臨海型の工業地帯をつくり高度成長を成し遂げた。ところが現在、その利点を十分には活かしきれない事態が生じている。港湾設備が巨大化する船舶に追いついていないからである。

 穀物や石炭、鉄鉱石などを運ぶバルク貨物船は、荷動き量の増大と輸送距離の延長化を背景に大型化が進み、パナマ運河を通らず喜望峰(ケープタウン)回りでも採算がとれるケープサイズ(十五万トン級)、さらに大きな三十万トン級のVLOCが出現している。二〇一一年に運航している一万トン以上の世界のバルク貨物船は八千六百九十九隻だがそのうちの約二割がこうした超大型船になっている。

 ところが我が国には超大型船が接岸できる港はほとんどない。ケープサイズの場合十九メートル程度の水深が必要であり、VLOCだと二十三メートル程度の水深が求められる。こうした資材、食糧輸入には私企業がかかわってくるためこれまで政府は手出しせず、私企業も投資額が巨大になるため対策を講じていない。このままでは我が国の輸入コストは中国や韓国と較べ高くなるばかりである。

そのうえ最近、放置できない事態が生じている。鉄鉱石の主要輸出国、ブラジルの大手資源会社が、輸送は自社で行い輸入国の港湾渡しで鉄鉱石の価格を決める方針を打ち出した。四十万トン級の巨大な鉄鉱石輸送船で運搬するといい、拠点港で降ろしたあと小型船に積み替えて配分していく。石炭についても超大型船による輸送が進展しつつあり、港湾設備の整った中国や韓国は比較的安い価格で購入できる。

しかし我が国で四十万トン級の輸送船が接岸できるのは大分港の新日鐵バースしかない。このバースは搬入専用であり搬出はできない私企業の専用である。従って石炭用といっても鉄鋼用原料炭の埠頭で一般炭用ではない。

このままでは、海に囲まれながらその地の利を活かしきれず運賃という形で国民所得が海外に流出する。

我が国にもバルク専用の拠点港湾が必要である。日本が輸入している一般炭、一億二百万トンの輸送コストは約二千億円と見積もられている。その三割を拠点港湾経由にすれば輸送コストを約百五十億円軽減することができるという。国家戦略として小名浜などに大水深岸壁を作り、バルク貨物のネットワーク化を図るべきである。

天然ガスは液化してLNG船で輸送しており、この分野でも大型化が進んでいる。安全で安定的な供給を確保するため、受け入れ基地(港湾)のインフラ整備は欠かせない。

提言五 第五のエネルギー♀J発に取り組め

最も地味だが政府が国民、企業、NPOらを巻き込んで一層の努力が求められるのは「第五の電源」開発である。政府は省エネ、節電をあげ、一〇%を生み出すと計算している。

政府が策定を急いでいる新エネルギー計画では「第四の電源」として省エネ、節電をあげ、約一〇%は生み出せると計算している。

東日本大震災のあと、われわれは江戸時代以来の先人の知恵を思い出し、ヘチマやゴーヤで高フカーテンをつくったり、打ち水をしたりして節電の努力を重ねている。冷暖房機をできるだけ使わないようにし、使う場合は温度を調整すること、電気をこまめに切ること、冷蔵庫はできるだけ開けないこと、照明のLED化すること、電機製品を買うときは省エネタイプにすること、などは当然である。しかしこれをもっともっと深化させなくてはならない。

二〇〇九年の我が国の最終エネルギー消費をみてみると産業部門が四二・七%、民生部門が三三・六%、運輸部門二三・七%となっている。これを第一次石油ショックが起きた一九七三年と比較してみると産業部門は〇・八五倍と大幅に削減しているが民生部門は二・四倍、運輸部門は一・九倍になっている。民生部門の大幅増加は都市部でのビル建設、住宅建設が影響している。

そこでゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)、ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)が必要となっている。住宅・建築物に対する省エネ基準の強化と義務化、対象の拡大が求められる。

東京の六本木ヒルズは地下にガスタービンの発電機を備え、周辺の再開発地域にあるビル、マンションを含めコジェネで熱電供給している。東京電力から電気を購入するより二〇%のエネルギー節減になり、しかも売電している。

既存のビルでも、タブレット型情報端末を利用して照明やエアコンをエリアごとに細かく管理していけば、消費電力を二〇%程度削減できることはいくつかの企業で実証済みである。こうした努力を広げなければならない。

:現在国内では横浜市、豊田市、けいはんな学研都市、北九州市の四か所でスマートコミュニティづくりの実証実験が行われている。都市内の一定区域で分散電源とスマートメーターを使いながらエネルギー管理システム(EMS)によってエネルギー使用の効率化を図っている。それぞれ効果が出ているといい、普及が期待されている。

今後の数年を予測してみると、プラグイン・ハイブリッド自動車、燃料電池自動車、家庭用燃料電池などが市場に出回ってくると思われる。第五の電源は想定を超えて生み出されるかもしれない。官民共同の努力が求められる。(了)

 

提言 TPP参加に全力をあげよ―震災復興にもTPPが不可欠だ
平成23年9月12日発行

東日本大震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の大事故はわが国に未曾有の被害をもたらした。死者・行方不明者が二万人を超え、十六兆円から二十五兆円にのぼるという震災被害でせっかく回復軌道に乗りかけていた日本経済は、電力不足に加え円高もあって先行き不透明になった。しかもあの三月十一日から半年経過したにもかかわらず一部の業種を除くと復興の足取りは遅々として進まず、被災者救済もはかどっていない。放射線に汚染された牛肉が流通して大騒ぎになるなど東北で生産される食品の安心安全にも疑念が生じている。政府・東電の工程表をみても、事故を起こした原子炉がいつ冷温停止状態になるか見通しがはっきりしない。

この大事故の影響もあり、政府が最重要課題とし六月には参加の是非を判断するとしていた環太平洋経済連携協定(以下TPP)への参加問題が宙に浮いたままになっている。TPP対策として菅政権時代に立ち上げた「食と農林漁業の再生実現会議」は大震災から三か月経ってようやく再開、八月二日に中間提言を発表したが、農業大規模化の将来計画を明らかにした程度で、TPP対策などには触れず仕舞いのまま閉店のようだ。

期待されている野田新政権でもいまのところ、本腰が入っているようには見えない。旧政権同様にどうやらTPPは先送りというムードが充満しているように見える。

ところがお隣の韓国は、震災被害で四苦八苦しているわが国を横目に着々と貿易を拡大している。特に、これまでわが国の稼ぎ頭といわれていた自動車、造船、電機の分野でわが国からシェアを奪いつつある。多くの国・地域と自由貿易協定(FTA)を結んだ効果が現れているのである。それが証拠に、既に発効している東南アジア諸国連合(ASEAN)、欧州自由貿易連合(EFTA)、チリの三地域・国との貿易額をみると、二〇一〇年実績は締結前よりなんと七割増になっている。韓国と欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)は今年七月一日に発効したが、その後の推移をみると前年同期比で約二割増となっている。EUでは日本製自動車には一〇%、テレビには一四%の関税が課せられるが韓国製は年々引き下げられいずれゼロになるのだから日本製から韓国製にシフトされていくのは明らかで既に日本勢の大苦戦、敗退が始まっている。米国とのFTAも近く発効するとみられ、そうなると韓国の貿易は飛躍的に増大するだろう。

こうした韓国の輸出攻勢に対してわが国の産業界は対抗する気力さえ失いかけているようだ。地震被害に加えて予想外の円高になっているところに菅前首相の脱原発依存表明の影響で電力の供給不足が長期にわたると予想されるからである。その上、輸出相手国の関税で韓国と差をつけられるのだから無理もない。「海外に工場を移転する以外対抗手段はない」といった悲痛な声が聞かれるようになり、実際、韓国に工場を移す企業も現れている。日本の雇用を守るため海外進出は必要最小限にとどめていたトヨタでさえ、海外への工場移転を口にするようになった。

企業は海外展開という手段により業績を伸ばすことができるからまだいい。しかしその結果、わが国は産業の空洞化を招き、雇用も失われ経済は疲弊する。そのような事態は絶対に避けなくてはならない。TPPへの参加は企業の海外流出にひとつの歯止めをかけることになる。積極的に交渉を進め、早期妥結を図るべきではないだろうか。問題になるのがTPPによって最も影響を受けるといわれる農業関係の対策である。農業についても実は東日本大震災で変革を迫られている。 そこでわれわれは以下の提言を行う。

提言一  政府はTPP参加に向け本気で取り組め

 

菅前首相は昨年十月の施政方針演説でTPPへの参加を表明したあと、同十一月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の会合と二月のダボス会議でも開国宣言、TPP参加を国際公約にした。内向的になりがちなわが国を国際社会に溶け込む国にするという考えは正しい選択である。ところが東日本大震災の後は全く口にしなくなった。

海江田万里前経済産業相も原発問題に忙殺されたためか、いつの間にかTPP問題を語らなくなった。内閣官房や国家戦略室なども、TPPは先送りというムードのようだ。しかしこれはおかしい。震災復興のためにはむしろ急いで取り組むべきである。

内閣官房国家戦略室のホームページを見ると「EPAに関する各種試算」として三つの試算が示されているが、この試算を点検しただけでも、TPPと真剣に取り組む姿勢ではないことが一目瞭然である。

なかでも農林水産省による試算二は、TPPに参加すると農産物の年生産額が四兆一千億円減少し、食料自給率は現在の四〇%から一四%に低下するとしている。現在の農業生産額は約八兆円だからそれが半減するというのだが、コメについていうと生産額二兆円のうち一兆九千億円減少するとしている。自家用に作っている兼業農家も耕作をやめ、TPPに入らない中国からの輸入も関税ゼロで計算している。第一、わが国で作られなくなるという八百万トンのコメの輸出能力は世界中探してもない。こんな試算を出す役所に存在価値があるのかどうか、いずれ問われることになるだろう。また国家戦略室はそういうことも精査せず農水省の提出書類をそのままホームページに載せ、国民を不安にさせているのである。

今年に入って東レと旭化成が大規模工場を韓国に建設する方針を明らかにした。韓国で生産すれば多くの地域に関税なしで輸出できるからである。日本がTPP不参加と決まれば多くの企業が雪崩をうって海外に工場を移すと予想される。TPP不参加によるデメリットは計り知れないほど大きくなるのである。政府は正確な推計を国民に示し、不退転の決意でTPP参加を実現すべきである。

提言二  大規模化で強い農業を目指せ

 高齢化、耕作放棄地の増大、担い手不足など危機に瀕する日本の農業の再生は、一刻の猶予もない。この難局は不可抗力ではなく、今後の政策を変えることで乗り越えられる。TPP参加は強い農業、国際競争力のある農業にするチャンスでもある。改革のポイントは以下のようなものにすべきである。

ア.大規模化を強力に推進する。

一戸あたりの平均耕地面積はようやく二ヘクタール近くなったもののまだまだ不十分である。東日本大震災は農業経営の大規模化を一気に加速させるチャンスともいえる。被災農地を再生させるにはほ場整備と交換分合が必要になるが、その際、水田一枚あたりの面積を少なくとも二ヘクタールにするのが望ましい。そうして、やる気のある若手の農業経営者に委ねるのである。本州の農業大規模化にはずみがつくと思われる。そのうえで、取り敢えずは五ヘクタールを目標にして大規模化を推進し、将来的には「食と農林漁業の再生実現会議」の中間報告にあるように三十ヘクタール、中山間地では二十ヘクタールを目指すべきである。具体化策としては、農地を貸す人には税制などで思い切って優遇するとか、耕地面積五ヘクタール以上の主業農家には手厚い補助金を出すなどを考えるべきである。その半面、耕作放棄地は農地として利用されないから宅地並み課税するなどの措置も考えるべきである。

 イ.減反政策を廃止し、耕作を自由にする。

世界的な食糧不足が懸念され始めた今日、わが国の減反政策は非人道的でさえある。せっかくの豊かな水田を放置して生産抑制するなど、もってのほかである。しかもそれを四十年続けている。水稲作付面積をみると減反直前の一九六九年には三百十七万三千ヘクタールだったものが二〇一〇年には百六十二万五千ヘクタールとなりこの間でざっと百五十四万ヘクタール減っている。そうして耕作放棄地が四十万ヘクタールにのぼっている。もったいない話である。

減反政策はコメの品種改良という点でも悪影響をもたらしている。減反政策を守るために、わが国ではコメの増産につながる品種改良はタブーとされているのである。このため、単収の伸びは小さくなってしまった。日本はいまやカリフォルニア米の単収と比較しても四〇%少ないといわれている。

減反をやめ品種改良をしていけば、耕地面積五ヘクタール以上の農家の一俵(六〇`)当たり生産コストは恐らく現在の約一万一千円が八千円から九千円に下がると思われる。そうしてコメの生産高は現在の八百万トンが一千万トンを越えると予想される。食料自給率は間違いなしに大幅アップする。また減反をやめ、関税をゼロにすると、ミニマムアクセスとして輸入が義務づけられている外米七十七万トンの輸入もしなくてよくなる。

 ウ.食料品の輸出に本腰をいれる。

減反政策をやめることで増産されるコメは輸出すればよい。丹羽宇一郎駐中国大使は伊藤忠商事相談役のころ「日本のコメが二〇%から三〇%安くなったら、世界中にいくらでも売ってみせる」と語っていたという。

日本のコメの美味しさはいまや広く知れ渡ってきたから、市場はあると思われる。既に中国、台湾、香港に輸出して成功している業者もある。問題は農水省に食料品輸出のための態勢が整っていないことである。例えば中国向けにコメを輸出しようとすると、燻蒸処理を求められる。燻蒸すると味が落ちるが、日本の検疫は甘く害虫が中国に入る恐れがある、という理由である。燻蒸処理ができる設備は長年、神奈川県に一か所しかなく、今年に入ってようやく九か所になった。これでは大量の輸出はできない。農水省は輸出を視野にいれ検疫の担当官を増員するなど検疫体制を強化すべきである。そうして中国と交渉、燻蒸処理しなくても輸出できるようにしなければならない。

リンゴ、ナシ、モモ、イチゴなど日本の果物の評価も高まっている。これらの検疫体制も整えなくてはならない。

また福島原発を早く安定させ、放射線による汚染の心配がないようにして客観的な評価

とともに、海外に発信することも必要である。

 エ.戸別所得補償制度を抜本的に見直す。

民主党政権になって始めた農家への戸別所得補償制度は、いろいろと問題が多い。もともと生産調整と価格維持を図るためのものだからである。極論すれば、半ば趣味で稲作をやって販売する農家にも支払われるのだ。このためこれまで主業農家に貸していた農地の返却を求める元兼業農家もあり、規模拡大という農政の基本に逆行しかねない結果となっている。

TPP参加を契機にこの戸別所得補償制度の対象を事業として農業に取り組んでいる人に絞り込むべきだ。同時に、価格低下分を補てんする変動支払いを拡充し、。関税軽減、撤廃によって生じる農産品の値下がり分の補てんに正面から取り組むべきだ。これまでは関税等で高くなった商品を消費者が買うわけだからその差額は消費者が負担しており、しかも米や麦などでは、関税の代わりに「負担金」が徴収されるなど、負担の実態が分かりにくかった。改正後は政府が財政で負担することで、これまでよりは血税の使われ方の透明性がアップする。

なお現在わが国で行われている段差があって大規模化ができない中山間地農業への直接支払いは、TPP参加に伴い拡充することを検討すべきである。

 

オ.農業への参入をもっと自由に。

農業に従事したいという希望を持っている若者は結構多い。また企業として農業への参入を考えているところもある。ここ数年の法改正でかなり参入し易くなったとはいえ、まだまだ障壁は高い。

まず認定農業者制度というのがある。この資格を得るには一定の規模の農地を所有するか借りていることが条件だが、資格を得てからでないと必要な資金が借りられない。その手続きが済むと営農計画書を提出、農機具一覧もチェックされる。さらに集荷先、出荷先についても農業委員会の審査を経なければならない。

農地法は二〇〇九年に改正されたがそれでもなお株式会社による農地保有は認められていない。借地をするにも農地に関する不動産情報は整備されていないため、どこに使われていない農地があるか調べるのは容易でなく、見付かってもいざ借りようとすれば厳しい規制がかけられている。

地域によっては高齢化と耕作放棄の激増で集落のコミュニティが壊れはじめている。そうしたところに若者や企業を呼び込み、コミュニティの再建を図らなければならない。そのためには、容易に農業に参入できるようさらなる農地法の改正が必要である。また新規参入には資金がいるが、その手当ても簡単ではない。豊富な余剰資金を抱えている農協の信用事業の資金や、その他金融機関の資金をこうした新規参入者に営農資金として融資する制度も必要ではないだろうか。

 なお、農業への企業の自由な参入を許せば、農地の適切な利用が確保できなくなるとの懸念があるが、これまで企業の参入を制限したにも関わらず、農地の転用や耕作放棄が年々進んでいることは既に述べた通りである。参入を自由にする代わりに、事後規制を強化し、農家であろうと企業であろうと農地を農業以外の目的に使うことがないよう取り締まりを徹底すべきだろう。

 カ.牛肉・酪農は知恵をしぼれ。

 TPP参加で最も大きな影響を受けるのは畜産牛肉農家や牛乳・乳製品をつくる酪農家だと思われる。関係者の痛みはよく分かる。地域差はあるが輸入飼料の高騰によって高コスト構造になってしまう。これらの地域ではトウモロコシ飼料を中心に肥育しているからどうしてもコスト高になるのである。国産飼料の活用、放牧による生産コストの削減、安価な輸入飼料確保の調達方法を国全体で考えるべきである。

 日本の高品質な牛乳・乳製品を生かした市場拡大にも力を入れるべきだ。ヨーロッパを旅行すると、村々で特徴のある独特のチーズをつくり、ブランド化されて高く販売されている光景を目にする。日本でもそうした試みを始めて、国産乳製品の需要拡大やアジアへの輸出を考えてはどうだろうか。

提言三  農協改革の断行を

 農業協同組合といえばかつては農家の強い味方だった。その土地に合った稲の品種の選定、種籾の調達、化学肥料の販売・配達など全て農協がやっていた。そのかわり通常の法人税率でなく軽減税率を適用され、金融庁検査を免除され、公認会計士の監査も行なわれていない。競合する農協の設立も制限されるなど優遇されてきた。しかしいつのころからか、農協は農家のためではなく自分たちの組織を守るための機関になってしまった。全国いたる所で農協への怨嗟の声が聞かれる。

 しかも最近は経営規模を拡大した農家が農協を頼らなくなってきた。必要な物資は自前で安く買うことが出来るからである。農協の支持母体はいまやサラリーマンの兼業農家中心になってきている。しかもその兼業農家は年々減り続けている。

 こうした農協を現在支えているのは信用・共済部門だとされている。農家からの貯金や保険を扱う部門である。農業部門ということでこれまで手厚く保護され、独占禁止法の適用除外になっている。TPPに参加し、自由化に対応できる強い専業農家が多くなれば、兼業農家に依存する農協は現在の規模を維持できなくなると予想される。これは信用・共済部門も同じである。TPPに猛反発しているのはそうした危機意識によるものと思われる。

いずれにせよ農業の大規模化で農協は組織の大改革を行わざるをえないだろう。農協の新規設立を自由にし、競争原理を導入してはどうだろうか。これまで熱心ではなかった農産物の輸出にも努力する組織にするべきである。同時にかつて規制改革会議で議論された信用・共済部門の分離を行うべきだろう。

提言四  新しい経済ルール作りに参画を

 TPPへの参加が望ましい理由の一つは関税以外でも幅広い経済ルールを新しく作っていく担い手になれることである。交渉中の九カ国の間では二十四の部会が設けられており、そこでは工業製品の市場アクセス、繊維・衣料品の市場アクセス、農業部門の市場アクセス、原産地規則、貿易円滑化、貿易保護、政府調達、電気通信サービス、一時入国、金融、電子商取引、投資、環境、労働、紛争解決、中小企業問題など、主として規制緩和が話し合われている。

ただし「労働」や「環境」は、規制緩和ではなく、先進国の高いレベルの規制に途上国も可能な範囲で合わせるよう求める議論がされていると聞く。

こうした分野の門戸開放は、ものによっては関税の軽減や撤廃以上に我が国にメリットをもたらすと思われる。

将来の国際ルールをつくるのは経済大国としての一種の義務でもあり、最初から協議の場に加わるべきである。

ここで決まるルールは、将来発足が予想されるアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)に引き継がれるし、さらに世界的ルールに育つと予想される。日米豪が中心となってまとめることができれば、ときに強引な姿勢で自国の主張を通そうとする中国に対して、既存の国際ルールがあると抑制することができる利点がある。

 反対派の中には「TPPへの参加は米国の要求によるもの。対米従属だ」とか「外国人労働者が大挙やってくる」、「国民皆保険制度の見直しを迫られる」などと説く人がいる。しかし一国の労働市場を乱すようなルールが決まるとは思えない。なお、医師や弁護士、看護師など資格を持つ人たちがお互いの国で活動できるようにする議論は、残念ながら現在のTPP交渉では扱われていないが、これらも日本にとってプラスになり得るはずだ。 

東日本大震災は我慢強い国民性を世界に認識させたが、その半面「ガラパゴス化」しつつある日本社会の構図をさらけ出した。一例を挙げると、いち早く救助を申し入れてきた米医師団をはじめ、各国の医師を「日本の医師免許を持っていない」として断ったのである。原発事故があったため、各国からの批判は免れたものの、結局、イスラエル医師団には日本人医師の補助という名目上の特別措置で治医療を認めた。本来、特別措置をとらなくても医療が可能になるようにすべきだろう。

さらに付言すればむしろわが国は率先して、看護士、介護士など現在大幅に不足している職種の人たちを招きやすくなるように、ルール作りを進めるべきである。

提言五  TPPと同時並行で東南アジア諸国との連携も深めよ

 

 わが国は自民党政権のときからずっと、また民主党に政権が移っても鳩山由紀夫首相まではアジア諸国との連携を重視すると強調していた。しかし菅内閣になるとTPP一辺倒になっている。東南アジアのいくつかの国は、この日本外交の突然の変化にとまどっているという。なかにはASEANの分断策と誤解している人もいるようだ。これは由々しきことである。

野田新政権はそうした誤解を解く努力をするとともに、東アジア広域のEPA交渉をTPPと並行して進めるべきである。できるだけ多くの国々とEPAを結び、日本がブリッジの役目を果たすのである。そのためにも現在交渉中であるオーストラリアとのEPAを早期に締結するとともに、日中韓、EUとのEPAについても早く交渉開始するよう努力すべきである。日本のEPA交渉がなかなか進まなかったのは農業問題がネックになっていたからだが、TPP参加が決まれば一挙に進展するのではないだろうか。

提言六  企業はEPA、FTAを活用せよ

日本もこれまでに十三件のEPAを締結した。ところがそのEPAが案外活用されていないのである。経営者がEPA、FTAのことをよく知らず、担当者も手続きが面倒なので率先してやらないのが原因のようだ。外交交渉でせっかく関税を安くしたのにそれを利用しないのはもったいないことである。

EPAを利用して輸出するには、日本国内で生産されたことを証明する特定原産地証明というのが必要になるが、その取得のための手続きが面倒なこと、EPAの相手国によって税率が変わっていること、しかも経過措置によって税率が毎年変わることなど、確かに事務が複雑であることは間違いない。しかし経費節減効果を考えると、それくらいは努力すべきだろう。

手続きは商工会議所が政府の委託を受けてやっているが、一件二千円の手数料がかかる。これが企業にとってはかなりの負担になる。事務の簡素化を図るとともに、輸出振興の一環として国による一部支援を考えても良いのではないか。

提言の背景

三月十一日の午後二時四十六分から三分ないし五分にわたって大地を揺さぶった東日本大地震は、マグニチュード九・〇という過去に例をみない強烈なものだった。震源域は岩手県沖から茨城県沖まで南北五百キロ、東西二百キロの広範囲なもので、これによる津波は宮古で四十・五メートルの高さを記録したほど大規模だった。その結果東北から関東にかけての太平洋沿岸は壊滅的打撃を受けたのである。

その中でも福島第一原子力発電所の被災は、炉心冷却用の全ての電源を失って水素爆発を招き、大量の放射能を撒き散らして世界に恐怖を与え、深刻な状況に陥った。半径二十キロ以内の警戒区域にある自宅にいつ住民が戻れるか、まだ不明である。

放射能問題に劣らぬほど世界を驚かしたのが、最新型モバイル機器や自動車高級部品の供給がストップしたことだった。東北地方には一九八〇年代以降、労働力を求めて多くの企業が工場を立地、なかでも最先端の電子部品工場が集まって「日本のシリコンバレー」とも言われるほどになっていた。そこが大打撃を受けた。

世界経済に大きな影響を及ぼしたこのサプライチェーンの寸断は、現在ではほぼ元にもどったようだが、リスク分散で一部の部品を海外メーカーに切り替えたところもあったという。

目を農業関係の被害に転じると、津波により浸水、冠水した農地は二万三千六百ヘクタールだった。宮城県では全体の一一・〇%、福島県では四・〇%、岩手県では一・二%が被災している。農地・農業用施設の被害額は七千二百九十二億円である。

現在の日本の農業を国際的観点からつぶさに点検してみるとそれほど悲観的になる必要はないことが分かる。あまり知られていないが国連食糧農業機関(FAO)の二〇〇五年統計によると日本の約八兆円という農業生産高は中国、米国、インド、ブラジルに次いで世界第五位の農業大国である。農水省が発表する自給率はカロリーベースだが、価格ベースで計算してみると自給率は六五%に達しているのである。

 二〇一〇年の農業就業人口は十五年前より百五十万人減って二百六十一万人である。農地面積一ヘクタール未満の高齢化した人たちが離農したためで、その半面、大規模化が進んでいる。二〇〇九年の農家一戸あたり耕地面積は一・九一ヘクタールと二十年前の二・二倍になった。これは当面のライバルと思われる中国の三倍の規模である。また五ヘクタール以上を耕作する農家は今や五万戸を超えている。北海道に限ってみると一戸あたり耕地面積は二〇・五ヘクタールで、二十年前の五・八倍。EU平均の一三・五ヘクタールを上回っている。また全国の年収一千万円以上の農家は十四万戸あり、その人たちが生産する農産物は日本全体の六〇%にのぼっている。日本農業はいつの間にかかなりの国際競争力をつけてきているのである。

しかも、農産物の内外価格差は小さくなってきている。外国産のコメはかつて国産の八分の一から九分の一だったが現在では二分の一程度になってきた。中国、台湾や東南アジアでは日本産のコメは美味しいと評価され、日本の国内価格よりも高く売られるようになってきた。福島原発の事故後放射線問題で伸びは止まったが、安全性が確認され政府が輸出促進の農業政策に変えていけば、日本農業は成長産業になる可能性さえある。

李明博大統領が「世界最大の自由貿易圏を構築した」と豪語する韓国は、日本を除くほとんどの先進国との間で自由貿易協定(FTA)を締結、関税ゼロで製品を売り込むことが出来るようになった。FTAは、世界貿易機関(WTO)貿易自由化交渉が頓挫したため二国間または地域間で独自の協定を結び、経済活動については基本的に国境をなくしてしまうというものである。締結すると締約国間に仲間意識が生まれ、交流が密になるという効果もある。

わが国はFTAとほぼ同じ内容の協定を経済連携協定(EPA)と称しているが、その締約国はシンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルーである。それら諸国との貿易額は貿易総額の一六%にすぎない。しかもその自由化率は八六%程度にとどまっており、九五%を超える他の国のFTAと比べると閉鎖的な内容である。

 参加か不参加か焦点になっているTPPは、もともとはニュージーランド、シンガポール、チリ、ブルネイ四カ国の間で二〇〇六年に結ばれた協定で、例外のない関税撤廃を目指すほかFTAよりも幅広い経済自由化圏を目指している。

米国のオバマ大統領は初来日した二〇〇九年十一月、東京のサントリーホールで行われた演説でTPPへの参加を明言、米政府はその後、自由貿易に関する外交交渉はTPPだけにし、FTA交渉は行わないと表明している。米国に続いてオーストラリア、ペルー、マレーシア、ベトナムが参加を決め、現在関係九カ国で具体的内容をつめる協議が続いている。メンバーの拡大と同時に、関税以外でも金融、投資、電子商取引、労働者の移動、政府調達など幅広く連携を深める狙いで新しい世界の経済ルールを作ろうとしている。関係国の間では今年十一月にハワイで開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の会合に合わせて合意することを目指していたが、日程はややずれ込む見通しになっている。

わが国としてはTPPに参加すれば自由化の遅れをかなり取り戻せるうえにその他の経済関連ルールづくりに参画、日米関係を緊密にする効果もある。ただ、これまでわが国が関税で守り続けてきた農産物のほとんどを自由化しなければならない。

内閣官房国家戦略室は「EPAに関する各種試算」として三つの試算を示している。試算一はマクロ経済効果分析で、TPPに参加すれば国内総生産(GDP)を〇・四八%〜〇・六五%押し上げるだろうとしている。逆にTPPに参加せず、韓国が中国ともFTAを結んだ場合、日本のGDPは〇・一三〜〇・一四%のマイナスになると予想している。

 試算二は農林水産省が試算したもので、TPPに入ってコメ等十九品目が関税ゼロになった場合の影響を推計している。これによると農産物は四兆一千億円減少し、食料自給率は現在の四〇%から一四%に低下する。GDPは七兆九千億円減少、三百四十万人の雇用が失われるという。しかしこれは余りにも被害妄想的で、現在の農業生産額約八兆円が半減するというのである。なかでも生産額二兆円のコメは一兆九千億円減少するとしている。牛肉生産は七五%減になるとしている。そうした仮定を前提に食料自給率が一四%になるという。自家用に作っている兼業農家も耕作をやめ、全国民が美味しい日本のコメを食べなくなるという想定である。わが国が減産するという八百万トンのコメをどこが生産するのか、記述はない。

試算三はTPPに入らなかった場合の影響を経済産業省が推計したものである。こちらは余りにも楽観的である。二〇二〇年のGDPで十兆五千億円の減少を招き、雇用が八十一万二千人失われるとしている。この数字をみると誰もがその程度なら我慢できると思うに違いない。試算二と合わせて考えると「TPPは慎重に」と結論づけるだろう。ところが経済産業省に確かめてみると、この推計は自動車、電機、機械の三業種のみを対象にし、工場の移転等は考慮せず、関税の税率の違いでどの程度の被害が出るかを調べただけという。三業種は日本の輸出の半分程度に過ぎないから、実際の影響は公表された数字の二倍以上になる。しかも影響は関税差による直接的なものにとどまらない。韓国では、日本からの部品輸入を米国産、欧州産に切り替える動きが出ている。韓国の調査機関は、少なくとも年間三千億円の日本製部品が、FTAを締結している国の製品になると予想しているのである。

 TPP参加という政府方針に対して農協をはじめとした農業関係者は、日本の農業が壊滅状態になると猛反発している。一般国民のなかでは、食料自給率が現在の四〇%が一四%に低下するという農水省の試算を見て、食糧安全保障の観点からTPP参加に反対する人がかなりあり、賛否がほぼ拮抗しているようだ。しかし農水省の試算は誇張されていると思われるし、食糧輸出国のなかには「食糧危機になったらFTA締結国から優先的に輸出する」と明言する首脳もありTPP、EPA、FTAを結んでいた方が食の安全保障につながるともいえるのである。(了)  

 


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